私はやぎが好きだ。
「やぎは目が怖い…」とか言う人は一瞬で嫌いになるくらい、それなりにやぎに接し続けていた時期もある。
やぎは言葉をしゃべらないけど、めちゃくちゃわかりやすい方の動物だと思う。
言ってしまえば、人間に近い。
やぎのキャラクター
やぎは個体により性格が様々だが、基本的に好奇心旺盛で、優しい(のか、利用されているのか…)。
人に可愛がられて育ったかとか、オスかメスかとかで愛想の良さや穏やかさは変わるけど、ヤギ牧場はかなりカラーがはっきり分かれる。そこが面白い。
群れで暮らす動物なので、マウントも取る。序列もある。
けど、有事の際は強い個体が前に出ていく。基本的にびびりだけど。
人間を使うのが上手。
体をカキカキさせる、自力では限界があるうまい葉を取るために目で訴えかける。
夏には空になった水飲み用バケツを派手にけとばして新しい水を入れさせる。
いつもはあまり関わらないやぎがやたら今日は自分の周りにいるなと思ったら、不慮のトラブルを訴えていることもある。
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やぎが何匹がいる園では人間関係ならぬやぎ関係を垣間見ることができる。
例えばこの写真を撮影したとある動物園。2匹のメスやぎにえさをやることができた。
この可愛らしいショットを撮影する前に、少しドキッとする出来事があった。
餌を持った私が手前のひつじに餌をやっている時から、可愛らしいショットに写っているのとは別のやぎが餌を持った私に一番近い所で、ベロベロしていた。明らかにえさをねだっている。
もちろんひつじとやぎ、それぞれにえさをあげるつもりでいたので、ベロベロしている様子は認識しつつもひつじに餌やり。
無事終えて、いざヤギのところへ。
ベロベロするヤギの奥に、かなり影が薄くて存在に気づかなかったヤギがいることに気づく。やけにえさに対する反応が薄い。
せっかく飛行機までの空き時間でヤギを見に来た私、あわよくばやぎを触りたい。
その思いで、餌しか眼中にないベロベロしているやぎに手を伸ばしたのが失敗だった。
噛みつく勢いで拒否の姿勢を見せ、えさをあげられない場所まで逃げてしまった。
その一方で、影が薄めだったやぎは私が呆然としている間に飼育員さんが作ったお立ち台に移動し、こっちを見ていた。
(このお立ち台、写真が超絶苦手な人間にもやぎの可愛い写真が撮れるようにと飼育員さんがかなり工夫したに違いない。(2回目))
お立ち台は柵から距離があるが、来園者が餌を転がしてお立ち台のやぎに届けられるようにパイプが設置されている。
こやつ、最初はえさに興味なさげだったのに、、
一方で、荒ぶるベロベロやぎは私が触ろうとしたのが怖かったのか、どうやってもえさを届けることができない場所に行ってしまったまま帰ってこなかった。
えさの粒をそちらに投げるなど、時間ぎりぎりまで粘ったがとうとうベロベロやぎがこちら(えさ含む)を振り向くことはなかった。
ベロベロアピールに感心してやぎ用に多めに残しておいたえさは、ベロベロしていたやぎではなく、お立ち台やぎに全部あげることとなった。
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完全に私の失敗だった。
触られたくないやぎ、隣に座られたら逃げるやぎ、元気に見えるけどビビリで人との関わりは怖く感じるやぎ。
そんなやぎはなんぼでもいて、ある程度距離を取って付き合ってきた筈だったのに。
そして衝撃が大きかったのは、やはり自分の中で人間模様でうまく行かなかったことをやぎ模様に投影したからだった。
アクションは即起こすがこだわりもあってうまくいかないやぎ。
一旦傍観して、チャンスを見極めて省エネルギーで利益を得るやぎ。
どう考えても私は前者寄りのキャラクターで、後者のキャラクターは好きじゃない。
少しでも前者のやぎに(触らせてくれたってええやん…)とため息をついた自分が悲しい。
前者のベロベロやぎは要領が悪くて、真っ先に柵の前でアピールしてしまう。
けれど、お客が求めているのは一般的な「かわいい」で、近くに寄ると触ろうとしてくる人も多いから、結局お立ち台にのぼることがえさゲットの近道になる。
戦略を早く掴むと、資源を効率よく手に入れることができる。
結局、そういう個体が生存に有利、強くなる。
きっと、私があの日見た時はなかったけれど、お立ち台を巡る2匹の争いもあったんだと思う。
負け続けて、ベロベロやぎは今も失敗体験を積み重ねてしまっているのかもしれない。
恐怖心を抱かせてしまう前に、えさをあげられたら良かった。
最初は失敗しても、えさを食べられたならベロベロやぎの中で失敗感が薄れたような気もする。
去り際に別のお客さんが来て、ベロベロやぎはまたしてもベロベロしに行った。
そこでも触ろうとされて、随分暴れていた。
お客さんは「おうおう。怖いなあ」的なことを言ってお立ち台やぎに向かって行った。
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自分が福祉を受ける側の人間ということもあって、こういった人間模様ならぬやぎ模様から考えさせられることも多い。
お立ち台やぎが写真も撮れるし有利だけども、真っ先に柵の真ん前で触られるリスクを冒しながらも必死にアピールするベロベロやぎにもえさゲットの経験はできない訳でもない気がする。
お立ち台を2個に増やすとか、そもそもベロベロヤギが来園者が触れるような場所に近づけないように柵を二重にしてパイプを通すとか。
(飼育員さんも既に色々試したり、そもそも資金的な問題でダメだったのかもしれないけど
追記:動物って基本的に人間と同列ではないので、やぎ同士の中で序列が下がってしまって弱っていく個体は基本的に放置のことが多い。悲しいけど)
とにかくえさは貰えないより貰えた方が良いと考えるのであれば、ベロベロの勢いを来園者に撮影してもらって動画でバズるとかでもそこまで悪くはないのかも、とか。
群れの中で弱い個体はどうしても急速に弱っていくところを沢山見てきたので、彼女にも何かしらの支援で成功体験を積める経験が増えると良いなと思う。
けれど、自分がこのやぎを飼っている訳でもないし、たかが1回訪れたよくわからん外野の人間が「こうした方がいいと思います」とか言うのは違うだろう。
次もし行くことがあれば、何も言わずに触らずにベロベロやぎにえさをあげようと思う。
地雷さえ踏まなければ、きっと次こそはえさを食べてくれるはずだ。